医療職者のための



危機理論の教育
(危機理論を教授する先生方へ)

 これは看護関係だけの話になりますが、各看護専門学校、看護短大、看護大学等で危機理論を教授するときの注意点について以下に私見を述べています。

 私が最も大きく危惧していることは、危機理論の講義をフィンクのモデルのみの解説で終わらせている場合があるのではないかということです。しかも、単純に4段階の特徴を述べるだけの講義によって。
 このホームページを訪れていただいた看護教員の方には、危機理論のもつ奥深さを知ってもらえるのではと思いますが、1つのモデルを表面的に解説するような講義では、危機理論の中身を教授したことにはならないと思います。もしそのような講義をするのであれば、返って全くしない方がいいと考えています。それは、危機理論をかじっただけの看護師が、かじっただけの知識で危機介入をし、対象の反応に一喜一憂するようなことはあってはならないと思うからです。
 これはラザルスの言葉ですが、しっかり対象を見つめないで、モデルのみで表面的に対象をケアすることは、「患者に不当な圧力をかけている」ということになりかねないからです。
 危機理論を教授するのであれば、モデル云々ということよりも、キャプランらの危機の概念をまず講義してください。

 幸い山口大学保健学科では、「危機管理看護学」という教科を設けており、そこで危機理論について教授するようになっています。大学の講義に限らず、日本看護協会の認定看護師研修や集中治療学会のICUセミナーなどで危機理論の講義を担当していますが、最初にする話はやはり、危機の考え方であり、キャプランらの危機概念であり、土台となっている理論について説明をしています。

 教授する側がどうぞ正しく危機理論のことを理解してください。ある看護学の著明なテキストには、「バランス保持要因」のことが説明されており、これを用いて危機状況を模式化したのはキャプランであるという記述があります。これは全くの誤りで、バランス保持要因について記述したのは、アギュララ(&メズイック)です。このように、教える側が間違った知識を教授することは、以ての外です。

 危機理論に関する関連文献のページには、豊富な文献をリストアップしています。その中の幾つかを手にし、学生に教授されることを切に望みます。