医療職者のための



危機理論を用いた研究



  1. 危機モデルを用いた看護研究の問題点
     危機モデルを活用するときの問題点で述べたように、モデルの活用には様々な問題点を抱えています。ところが危機モデルを活用した多くの研究は、こうした問題点についてほとんど省みられていないようです。例えば、フィンクのモデルを用いた日本でのこれまでの研究は、モデルが示す各段階の心理的特徴を実際のケースに当てはめながら分析し、モデルが示す危機介入の考え方を取り入れた看護実践について報告したものが多いようです。しかし、ほとんどのものは障害受容という視点はなく、マスローのニード理論を踏まえた分析もしていません。また、モデルの持つ限界を考察しているものも少なく、モデルに対する批判的な視座を持って研究しているとは言い難いところがあります。

  2. 危機モデルを用いた看護研究の注意点
     危機モデルを使った看護研究では、臨床での活用と同様にまずモデルの構築された背景を知ることが大事です。ただ表面的に理解してもモデルの本質を把握しないままの研究に終わってしまいます。対象は人間であり特に心理現象を扱うので、人間研究の土台となる心理学や行動科学の知識も必要になることがあります。そして、研究する上でぜひ心得ておきたいのが、批判的思考(クリティカルシンキング)を持つということです。これは、当て推量の思考や未熟な経験則のみで物事を見るというのではなく、科学的根拠持った判断、意図的かつ系統的、問題志向的な思考が重要だということです。そうすることによって、モデルへの安易な当てはめなどは減っていくでしょう。
     今後の研究としては、モデルに合致しない事例研究、様々なモデルを用いた比較研究、モデルを検証するための実証的研究、モデルを用いないでスタートする基礎研究などが増えていくことを望んでいます。